Scalaとは?言語の特徴や用途を分かりやすく解説

近年注目を集めているプログラミング言語として、Scala(スカラ)が挙げられます。日本国内での利用はまだ限定的ですが、アメリカを中心に海外ではすでに広く普及している言語です。実際に使ったことはなくても、名前を耳にしたことがある人は多いのではないでしょうか。日本でも今後の活用が期待される言語であり、理解しておきたいプログラミング言語のひとつです。
ただし、注目を集めてはいるものの、Scalaの具体的な特徴や用途については、十分に把握できていない人が多いかもしれません。そこで今回は、Scalaとはどのような言語なのか、基本知識や主な活用分野について解説していきます。
Scalaとは
Scalaは、2003年に公開された比較的新しいプログラミング言語です。2001年にスイスで開発が始まり、2003年に初版が登場、その後2004年から本格的に広く利用されるようになりました。現在も開発は活発に続けられており、最新のバージョンは2024年8月に公開されています。
Scalaの最大の特徴は、オブジェクト指向と関数型プログラミングの両方のパラダイムを取り入れたマルチパラダイム言語であるという点です。多くのプログラミング言語は、オブジェクト指向か関数型か、どちらかに偏っていますが、Scalaではその両方の概念を自然に組み合わせて使用することができます。
また、Javaとの互換性が非常に高く、Javaで書かれたコードと共存・連携できることもScalaの強みです。そのため、Javaベースのシステムを持つ環境でも導入しやすく、オブジェクト指向言語として扱われるケースが増えています。
さらに、Scalaは関数型にも対応しているため、関数をシンプルに記述することが可能です。オブジェクト指向ではクラス定義などで記述が冗長になりやすい傾向があります。しかし、Scalaではその煩雑さを回避でき、より簡潔で直感的なコードを記載できるのです。クラスベースの構造の良さと、関数型ならではの記述のスマートさを両立できる、魅力的な言語といえます。
ScalaとJavaの関係性
ScalaとJavaは非常に関係の深いプログラミング言語であり、この点はしっかりと理解しておくべきです。
まず、Scalaの開発者であるマーティン・オーダースキーは、Javaの設計にも関わった経歴を持っています。そのため、Scalaの言語設計にはJavaの思想や構造が色濃く反映されていることがポイントです。Scalaにオブジェクト指向の考え方が取り入れられている理由は、この影響によるものといえるでしょう。
また、記述方法や構文に似た点が多いだけでなく、ScalaはJavaと同じJVM(Java Virtual Machine)上で動作するという特徴があります。専用の実行環境を新たに用意する必要がなく、JVMさえあればScalaプログラムも動かせるのです。開発環境を整えやすいという利便性の高さは、これから普及を後押しする理由となるでしょう。
他にも、ScalaはJavaのライブラリをそのまま活用できる点が魅力です。Scala独自のライブラリも増えてはいるものの、Javaと比べるとその数はまだ限られています。そのため、既存のJavaライブラリを活用できることで、開発効率を大幅に向上させることが可能です。
ScalaとJavaの言語的な共通点と違い
ScalaとJavaは互いに関係が深く、共通点の多いプログラミング言語です。ただ、明確な違いも存在します。以下にその代表的なポイントを挙げて比較します。
共通点
共通点をまとめると以下の通りとなります。
JVMで動作可能 | JVM上で動作し、JavaとScalaのコードは混在させることも可能 |
オブジェクト指向の採用 | オブジェクト指向の概念に基づいて設計され、クラスや継承などの概念を共有 |
静的型付け | 型安全性を重視し、いずれもコンパイル時に型をチェック |
豊富なライブラリの利用 | Javaのライブラリ資産をScalaでも利用できるため、実用面での互換性が高い |
違い
違いは以下の通りとなります。
関数型プログラミングのサポート | Scalaは関数型言語としての性質を強く持ち、ラムダ式や高階関数、イミュータブルデータなどをサポートします。JavaはScalaほど柔軟ではない。 |
構文の簡潔さ | Scalaは記述の簡潔さが特徴で、少ない行数で多くの処理を表現できる。 |
型推論 | Scalaは型推論機能が強力で、明示的に型を書かなくても推論が可能。Javaも一部対応しているものの、Scalaほど柔軟ではない。 |
マルチパラダイム | Javaは基本的にオブジェクト指向、Scalaはオブジェクト指向と関数型の両方をサポートするマルチパラダイム言語。 |
Scalaの特徴やメリット
ここでは、Scala(スカラ)の特徴やメリットについて、ポイントを整理しながら解説します。
マルチパラダイムのプログラミング言語
Scalaはオブジェクト指向と関数型プログラミングの両方を取り入れた、マルチパラダイム言語です。そのため、オブジェクト指向のメリットである「クラス」や「継承」、「ポリモーフィズム(多態性)」といった機能はすべて備えています。
加えて、関数型プログラミングの要素である高階関数やラムダ式、パターンマッチなども利用が可能です。これらは重要な概念であり、柔軟に活用できる点は大きな利点といえます。
このように、マルチパラダイムであることによって柔軟性と再利用性の高いプログラムを記述することが可能です。「オブジェクト指向だけ」「関数型だけ」では対応が難しいケースも、Scalaであれば適切に設計できる可能性があります。
簡潔なソースコード
Scalaは型推論をサポートしているため、冗長な型宣言を省略できます。また、関数型スタイルを取り入れた表現が可能なため、複雑な処理も短いコードで記述できることがポイントです。例えば、次のような書き方に対応しています。
val list = List(1, 2, 3).map(_ * 2)
このように、Javaに比べて読みやすく、保守性の高いコードの記述が可能です。もちろん、簡潔すぎることにより、慣れていないと誤解を生みやすいなどの弊害もあります。誤用によるバグには気をつけなければなりません。
並行・分散処理に強い
Scalaは、Akkaと呼ばれるフレームワークと組み合わせることで、アクターモデルによる非同期処理を簡単に実装できます。本来、非同期処理の実装には専門的な知識と煩雑なコードが必要です。しかし、ScalaではAkkaを使うことでシンプルな記述で非同期処理を実現できます。
また、並行・分散処理を適切に実装できることで、マルチスレッド処理やスケーラブルなシステムの構築が可能です。実際に、X(旧Twitter)やLinkedInといった大規模なサービスでもScalaが採用され、非同期処理やパフォーマンスの向上に活用されています。
国内での需要が高まっている
Javaに近い文法を持つこともあり、国内におけるScalaの需要は徐々に高まっています。現在のところ、日本ではまだJavaのほうが主流ですが、Scalaの求人数は増加傾向にあるのです。
また、Scalaを扱えるプログラマの数が少ないため、平均年収も比較的高い傾向にあります。需要に対して供給が不足しているため、スキルを持つエンジニアが市場で重宝されているのです。
ただ、あくまでScalaエンジニアの絶対数が少ないことが理由である点は理解しておきましょう。スキルの習得自体は簡単ではないため、これから学びたい人は慎重に検討すべきです。とはいえ、今後Scalaの導入が増えていけば、国内で需要がさらに高まるでしょう。
Scalaのデメリット
Scalaは多くのメリットを持つプログラミング言語ですが、学習・運用にあたっていくつかのデメリットも存在します。ここでは代表的な注意点を紹介します。
学習コストが高い
Scalaは、プログラミング言語の中でも学習コストが高い点に注意が必要です。Scalaはオブジェクト指向と関数型プログラミングの両方を取り入れたマルチパラダイム言語であり、両方の概念を理解することが求められます。
既にオブジェクト指向と関数型の両方に精通している人であれば、大きな問題にはならないでしょう。しかし、多くの人はどちらか一方にしか馴染みがないはずです。特にJavaからScalaに移行しようとする場合「オブジェクト指向には慣れているが、関数型には不慣れ」という状況になるでしょう。
また、どちらの概念も十分に理解できていない場合、いきなりScalaを学び始めることはおすすめできません。最初にオブジェクト指向の基本を十分に学び、次に関数型プログラミングを理解、その後にScalaへと進む段階的な学習が必要です。
開発環境の整備が不十分
Scalaの開発にあたっては、開発環境が他言語に比べてやや充実していない点も注意すべきポイントです。
主に用いられる開発環境はIntelliJ IDEA(インテリJ アイディア)で、安定して使用できるScala向けIDEとされています。JavaとScalaの開発に使われていたEclipseは互換性やサポートの観点から、推奨されなくなりました。
IntelliJ IDEAの機能は充実しているものの、Javaで用いられるEclipseと比較した場合、見劣りする部分が残っています。特に、コード補完やデバッガ、ビルドツールなどの点で、まだまだ整備が求められるのです。
Scalaの活用事例
具体的に、Scalaにはどのような用途があるか紹介します。
Webサービス、サーバーサイドの開発
Scalaは、Webサービスやサーバーサイドの開発に広く利用されています。Play FrameworkやAkkaなどのフレームワークと組み合わせることで、スケーラブルなWebアプリケーションを構築しやすいからです。
例えば、X(旧Twitter)は、データベース周りの処理をScalaに移行しています。リアルタイム性が求められる非同期通信のサービスであるため、より高性能なScalaへと切り替えたのです。
また、教育プラットフォームのSchooでも、開発にScalaが利用されています。こちらは非同期通信の多いサービスではありません。ただ、動画を含めた大量のデータ処理が必要となるため、安定して動作するプログラミング言語としてScalaが採用されているのです。
モバイルアプリ開発
主にスマートフォン向けのモバイルアプリ開発にScalaが利用されることもあります。ただし、アプリそのものを開発するのではなく、モバイルアプリから呼び出されるAPIなどのバックエンド開発です。
例えば、ニュースアプリ「SmartNews」は、アプリ本体をJavaで開発しています。これに加えて、AWS上に構築されたAPI基盤の一部にScalaが使われているのです。この設計によって、データを効率よく処理できるようになりました。すべてをJavaで開発すると動作速度の低下などの懸念があるため、一部をScalaに置き換えて最適化しているのです。
ビッグデータ処理
ビッグデータの処理ではPythonがよく利用されますが、Scalaが使われるケースも増えています。まだ普及途上ではあるものの、今後の活用が期待される分野です。
たとえば、Apache Sparkを利用することで、大規模なデータ処理をScalaで実装できます。Sparkは分散コンピューティングフレームワークであり、処理負荷の高い環境でもその威力を発揮できるのです。
まとめ
比較的新しいプログラミング言語であるScalaについて解説しました。Javaの特徴を踏襲しつつ、関数型プログラミングの考え方も取り入れたマルチパラダイム言語である点が特徴です。その分、学習コストは高いですが、習得すれば複雑なソースコードも簡潔に記述できるようになります。
海外ではすでに高い需要があるScalaですが、日本国内ではまだ普及の途中です。今後さらに利用が広がり、Scalaエンジニアの需要も高まると考えられます。事前にスキルを習得しておけば、他のプログラマと差をつけ、市場で優位に立ち回ることができるでしょう。