機械学習には数学が必須!?必要な数学レベルを解説

機械学習には数学が必須!?必要な数学レベルを解説

機械学習を正しく理解するためには数学の力が必要だと考えられています。幅広い部分で数学によって支えられている技術であるため、このような考え方は間違っていません。数学について十分な理解があればあるほど機械学習の根幹を理解できるでしょう。

機械学習に数学が必要とはいえども、具体的にどの程度の数学力が必要なのかはあまり理解されていません。今回は機械学習で利用されている数学の内容を踏まえて、どの程度の数学力があれば良いのかを解説します。

機械学習とは

機械学習とは、主にコンピュータなどの機械が大量のデータから学習する行動を指します。人間もさまざまな情報を取り入れて学習するように、コンピュータもデータを与えることで学習できる仕組みが存在するのです。

機械学習の特徴は、与えられた情報を全て覚えるだけではなく、そこから新しいパターンを導き出せる点です。人間が様々な定理や公式などを導いてきたように、機械も与えられたデータから新しいルールなどを導きます。このような機能が実装できるようになったという意味合いで「学習」との名称が使われるようになりました。

人間とは少々異なる点として、機械はこのようなパターンやルールを数学的な理論で導き出します。関数と呼ばれるものを利用して、データ間の紐づきを定義したり、大量のデータから傾向を分析したりするのです。データ量があまりに多く、人間では計算しきれない内容でも、コンピューターであれば計算できてしまいます。この計算や実装に数学的なスキルが必須なのです。

機械学習に数学は必須かどうか


機械学習に、数学が必須かどうか気になる人は多いでしょう。これは「どのような視点から評価するか」で大きく異なるため、場合分けして解説します。

理論的視点から

機械学習の理論的な視点から評価すると、数学は必須であると考えられます。機械学習の根幹には、線形代数や微分積分、確率論などの数学的概念が存在するからです。

たとえば、ニューラルネットワークは、多次元ベクトル空間での演算が求められます。これを算出するためには、微分や行列演算など、数学的な知識が必須なのです。また、機械学習モデルの性能を評価する際も、統計学や確率論の理解が求められます。

論文など学術的な側面から機械学習を理解するならば、数学的な表現に対応できるスキルは必須です。そのため、仕組みを正確に把握できるように、基礎から応用まで幅広い数学スキルを習得しなければなりません。機械学習のアルゴリズムを深く理解し、理論的な観点で成長するために、数学スキルが欠かせないと考えましょう。

応用的視点から

機械学習を応用する(活用する)という観点からは、数学のスキルが必須とはいえません。多くの場合、実装の場面では機械学習のフレームワークやライブラリが、内部で複雑な計算を担ってくれます。そのため、応用する側が、必ずしも高度な数学スキルを習得しておく必要がないのです。

例えば、PythonやRなどの言語と関連するライブラリを組み合わせると、簡単にモデルの構築や訓練を進められます。本来は数学の深い理解が求められますが、これらの使い方さえ理解できていれば問題にはならないのです。

ただ、応用的視点から必須ではないものの、エラー分析や問題解決のためには習得しておくべきです。このような状況は、特定のフレームワークやライブラリの知識だけでは解決できない可能性があります。日常的には求められないものの、数学を理解しておくに越したことはありません。

キャリアの観点から

観点を変更し、キャリアの観点からも数学が必須であるか評価してみます。現在、機械学習を理解できている人材は少なく需要が高い状況です。つまり、このレベルの数学を理解していることはキャリア形成という意味合いで大きな意味を持つでしょう。

例えば、アルゴリズムの基礎原理を理解できていると、モデルの振る舞いについて自分自身で把握できるようになります。その結果、専門的な視点からAIを運用できるようになり、データ分析の業務でキャリアを広げられるかもしれません。

これは一例ではあるものの、機械学習の分野や業務でキャリア形成したいと考えるならば、数学は必須だといえます。ただ、どのレベルまで理解すべきかは、状況によって左右される部分があるでしょう。

機械学習で必要な数学レベル


具体的に、機械学習で必要な数学レベルを、基本的なレベルと応用的なレベルに分けて解説します。

基本的なレベル

基本的なレベルでは、高校や大学で習得する数学の知識が求められます。

線形代数

線形代数は、ベクトルや行列などの構造を扱う数学の分野です。機械学習においては、データを数値ベクトルとして整理・操作する際の基盤として利用します。

たとえば、ニューラルネットワークの重みや入力データは行列形式で表現することが可能です。そして行列演算を通じて、効率的な処理を見つけるという流れを取ります。また、主成分分析(PCA)などの次元削減手法では、特異値分解(SVD)を用いなければなりません。さらに、正則化で用いられるL1ノルムやL2ノルムなども線形代数の概念に基づき、モデルの複雑さを制御するために利用されます。

確率・統計

確率・統計はデータの不確実性を扱う数学の分野です。機械学習では、モデルの評価やパラメータ推定に大きく関係しています。ガウス分布、ベルヌーイ分布などの確率分布を理解することで、誤差やばらつきを定量化したり、信頼区間を設定したりできるのです。

また、観測データから「最も確からしいパラメータ」を求める手法として、最大尤度推定が利用されます。ベイズ推定など複数の数学的な手法を組み合わせて、事前分布を考慮しつつ不確実性を評価するのです。

他にも統計的仮説検定や交差検証といった手法も機械学習では必要です。これらは過学習を防ぐために用いられるもので、訓練の精度を高めるために必要な数学のスキルと考えられます。

微分・積分

微分・積分は、関数の変化率や面積などを扱う数学の基礎分野です。機械学習では、主にパラメータ更新や誤差関数の最小化に応用されます。

具体的には、ニューラルネットワークの学習アルゴリズムは、微分・積分によって支えられています。例えば、バックプロパゲーションは、微分を駆使して重みの勾配を求める手法です。そして、算出した結果を踏まえて勾配降下法やAdamなどでパラメータを最適化します。

また、微分・積分の一環として多変数関数の極値を理解しておくと、学習の収束特性や最適解の探索に役立つでしょう。さらに、微分積分の知識を踏まえて損失関数の形状を考察ができるようになれば、初期値設定や学習率調整などにも応用が可能です。

応用レベル

応用的なレベルでは、主に大学で取得する複雑な数学の理解が求められます。

線形代数(応用)

線形代数の応用力は、多様なデータ解析手法やモデル設計において必須です。たとえば、大規模データを扱う際は、線形代数を応用しなければなりません。特異値分解の近似やランダム化手法などを用いて、処理の高速化を検討します。また、固有ベクトルや固有値を用いたスペクトラルクラスタリングでも、線形代数をベースとしなければなりません。

基礎ではなく、応用まで線形代数を理解すると、データの次元削減や潜在構造の抽出、効率的な計算などが実現できるようになります。機械学習の実装だけではなく、省メモリ化や高速化には、より深い数学のスキルが必須なのです。

確率分布・情報理論

機械学習の性能を左右する要素として、確率分布と情報理論の理解が挙げられます。そのため、応用レベルとして、より難易度の高い確率・統計も習得しておくと良いでしょう。

例えば、正解ラベルと予想分析の差異を計算するために「クロスエントロピー損失」と呼ばれる数学の理論が利用されます。また、データの有用性を測定するために、相互情報量と呼ばれる概念を応用することもあるのです。

機械学習の理論は、多くが確率・統計に支えられています。より深い部分まで理解しておくことで、新しい理論を理解したり自身が新しい考えを生み出したりできるでしょう。

統計的推論

統計的推論は、観測データから母集団や未知パラメータを推定する枠組みを提供してくれます。つまり、機械学習モデルの信頼性や妥当性を高めてくれるため、理解しておきたい数学の要素です。

例えば、最大尤度推定やベイズ推定を理解していると、未知パラメータを容易に求められるようになります。また、EMアルゴリズムを使いこなせるならば、潜在変数モデルの学習を理解することが可能です。事前分布と事後分布を組み合わせられるようになると、過学習の防止に役立てることもできます。

統計的推論を習得すると、高次元で複雑なモデルにも対応しやすくなります。データ解析やモデル評価において、より深い洞察と高い信頼性を得られるようになるため、データサイエンティストレベルならば理解したい概念です。

最適化理論

最適化理論は、機械学習モデルがパラメータを更新し、目的関数を最小化するプロセスを体系的に理解する学問分野です。具体的には、勾配降下法などの分野が含まれ、学習率やモーメンタムなどの計算を支援します。これらが確立されていることにより、収束速度や汎化性能を微調整できるのです。

さらに、2次情報を利用するニュートン法や準ニュートン法も最適化理論に含まれます。これらは、高速化と計算コストのバランスを取る際に重要な数学の知識です。間接的に、性能を左右する数学スキルと表現しても良いでしょう。

最適化理論を深く理解すると、より効率的で堅牢な学習アルゴリズムを設計できるようになります。結果、機械学習の性能を論理的に向上させられるのです。

数学の習得に向けた学習法

機械学習を理解するためには、数学が必要であることを理解いただけたでしょう。続いては、それを踏まえてどのように学習すればよいかを解説します。

数学の基礎固め

最初に、数学の基礎固めを進めなければなりません。基本的に、数学の学習は積み上げ式であるため、高校生レベルの基本的な部分からの学習が必須です。このレベルすら理解できていないと、機械学習に向けたレベルの高いものは習得できません。

高校レベルの基礎固めができたならば、大学数学にチャレンジしましょう。ここでは、線形代数や微分・積分、確率・統計の基礎を習得していきます。高校でも学習する単元ですが、大学レベルのより深い内容を学ぶことが重要です。例題や演習を通じて、一通りマスターしましょう。

機械学習に特化した学習

基礎を習得したならば、機械学習に特化した学習も必要です。数学はあくまでも、機械学習を支えるための基本的な学問に過ぎません。機械学習のアルゴリズムに、数学がどのように適用されているかまでを理解することが重要です。

例えば、線形代数は、機械学習においてデータを数値ベクトルとして操作するために利用されます。このような「機械学習における応用方法」は数学の勉強だけでは習得できないため、個別に学んでいかなければなりません。

新たな理論の習得

中長期的に数学を機械学習に活かしたいならば、新たな理論の習得などを目指しましょう。例えば、学術論文を読み解いて、新しいアルゴリズムを理解するなどです。自分自身で発見することは難しいため、他者の論文などを参考にします。

とはいえ、新しい理論などを学習し続けることは大きな負担です。そのため、データサイエンティストなど、機械学習をより専門的に扱うポジションのみ習得すれば良いでしょう。基本的には、機械学習に特化した学習まで済ませれば十分です。

まとめ

機械学習には数学が必須であるかどうかについて解説しました。基本的には数学が必要ですが、どの程度のレベルが求められるかは状況によって変化します。そのため、どのように機械学習と関わるかによって、数学の学習レベルも検討しなければなりません。

特に、機械学習を応用するだけの立場と、アルゴリズムを開発する立場では必要な数学レベルが異なります。応用するだけであれば、難易度の高い数学は必要なことも多いため、そのような学習レベルの判断が必要です。

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admin