フリーランス保護新法を解説!下請法、インボイス制度との関係は?

フリーランス保護新法を解説!下請法、インボイス制度との関係は?

フリーランスに関わる法律としてフリーランス保護新法と呼ばれるものがあります。契約上不利になりがちなフリーランスを守るための法律で、フリーランスとしては特に理解しておきたいものです。

ただ、現時点では法律案であり、既に施行されている法律ではありません。今回はこれから成立する予定であるフリーランス保護新法とはどのような法律であるのか、基本的な知識について解説します。

フリーランス保護新法とは?


まずは現在公開されている情報から、フリーランス保護新法がどのような法律になる予定であるのかご説明します。

フリーランス保護新法の概要

フリーランス保護新法はフリーランスに対して不利な要求を強要しないように制定が検討されている法律です。ランサーズ株式会社の調査を参照すると、2021年度では約1,577万人のフリーランスが活躍しているといわれています。そのような時代においてフリーランスが働きやすい環境をつくるために、フリーランス保護新法の制定が議論されているのです。

具体的に法案の名称が公開されているのではなく、フリーランス保護新法は内閣官房が2022年9月13日に公開した「フリーランスに関わる取引適正化のための法制度の方向性」に由来しています。パブリックコメントの募集もあり、その内容を踏まえてこれから新しい法律が成立するはずです。2022年内に成立することが予想されていましたが、現時点ではまだ内容についての議論中です。

フリーランス保護新法で発注側に定められる義務

フリーランス保護新法では発注側である企業がやるべき3つの義務について触れられています。

業務委託の開始・終了に関する義務

フリーランスと業務委託を結ぶ際は、業務委託等内容や報酬など契約条件について示すことが義務化されます。現在は契約書なしで仕事を受注するフリーランスも多く、このような働き方がトラブルの原因となってしまう状況です。希望しても契約書が発行されないこともありますが、フリーランス保護新法が施行されるとそのような状況はなくなります。

また、継続的に業務委託を行う場合には、契約の期間や終了条件、途中解約の報酬なども記載が必要です。現時点では企業側による一方的な解約が認められてしまい、フリーランスが被害を被っています。契約期間が長くなる場合は事前に途中解約について定めておく必要があり、それについて契約書などに記載しなければなりません。

加えて、契約を途中解約したり更新しなかったりする場合には、事前に告知することが求められました。原則として30日前に解約を通知しなければならないルールとなり、フリーランス側は唐突に仕事がなくなる状況を避けられます。なお、契約が解除される際には、その理由を開示してもらうように請求できる権利についても触れられています。

業務委託の募集に関する義務

複数のフリーランスを募集する際は、募集内容が明確にわかるように記載する義務があります。フリーランスにメリットがある部分だけを記載したり、虚偽の内容を公開したりすることは明確に禁止されます。最新の情報かつ、フリーランスが誤解しないような形で情報公開しなければなりません。

また、募集内容に応募してきたフリーランスに対しては、必要な情報を適切に開示しなければなりません。例えば、プロジェクトの期間や毎月の報酬、求めるアウトプットなどを定めておき、フリーランスに伝える必要があります。フリーランスが契約するかどうか判断できるように、細かな部分までも提供することが義務化されるのです。

募集内容が明確化されることにより、フリーランスは「契約すると思っていた仕事ではなかった」という状況を避けられます。契約書などの交付も義務化されるようになるため、そこに依頼を記載してもらえば、後からトラブルになる可能性は下がるはずです。

報酬の支払いに関する義務

事業者はフリーランスに対して、役務などの提供を受けた日から60日以内に報酬を支払う必要があります。現在ではフリーランスに対する支払い遅延が問題視されることが多々ありますが、フリーランス保護新法では支払いについても明記されるため安心です。

60日以内に支払う必要があるというのは、下請法など他の法律でも定められています。ただ、フリーランスの働き方は今までの法律ではカバーできなかったため、フリーランス保護新法で保護される見込みです。

フリーランス保護新法で保護の対象となるフリーランス

フリーランス保護新法で保護の対象となるフリーランスは幅広く、例えば以下のような職種が該当します。

  • プログラマー
  • システムエンジニア
  • デザイナー
  • Webデザイナー
  • ライター
  • マーケター
  • コンサルタント
  • 手芸関連

今のところフリーランスであれば仕事内容は問われないと考えられます。フリーランスにはIT業界などをイメージする人が多いですが、個人で何かしらの事業を営んでいればフリーランスです。個人事業主として働いている人も1人ならばフリーランスとして考えるべきであり、ここで紹介した以外にも様々な仕事内容が考えられます。

なお、仕事内容は問われないものの、「個人事業主として届け出をしていること」などの条件が付与される可能性があります。一般的な言葉の定義では、自分自身で仕事を営んでいればフリーランスではあるものの、法律上の定義については最終的に法律が施行されてから確認しなければなりません

フリーランス保護新法と下請法の違いは?


下請法は「下請代金支払遅延等防止法」と呼ばれる法律で、親業者から下請け事業者に対して、不当な扱いが発生しないように制御するものです。業務委託においては、発注する側が優位になる傾向があるため、そのような状況を改善するために下請法が存在しています。

ただ、下請法はどのような業務委託契約でも適用されるのではなく、以下の条件を満たさなければなりません。

  • 親事業者の資本金が1,000万円を超える
  • 下請事業者の資本金が1,000万円以下

フリーランスの場合自身の資本金が1,000万円以下だと考えられますが、発注する側の資本金が1,000万円を超えているとは限りません。発注する側の資本金が1,000万円を超えていない場合は、下請法の対象外となってしまい、トラブルが起きてもフリーランスは守られない状況となっているのです。

それに対して、これから施行されるフリーランス保護新法は下請法のように同じ業者の資本金について定義されません。フリーランスに対して業務委託契約を結ぶならば、どのような親事業者でもフリーランス保護新法に定められたルールを守らなければならないのです。今まで下請法では守れなかったフリーランスも、フリーランス保護新法の施行に伴い守ってもらえるようになります

フリーランス保護新法が導入される背景は?

フリーランス保護新法が導入される背景にはどのようなことがあるのかご紹介します。

フリーランスが巻き込まれるトラブルの多さ

厚生労働省と第二東京弁護士会が協力して運営する「フリーランス・トラブル110番」の情報を参照してみると、フリーランスは非常に多くのトラブルに巻き込まれています。特に契約関連のトラブルが多く「契約内容が曖昧である」「極端に単価が低い」などを中心に、「ハラスメントを受けている」「一方的に契約を打ち切られた」などの事例が紹介されている状況です。

弁護士会が協力するほどフリーランスには多くのトラブルが発生していて、この原因は法律が整備されていないことです。罰則規定が明確ではないためクライアント側が無茶な要望を出してしまい、結果として弁護士に相談するほどのトラブルが生じてしまいます。このような状況をできるだけ早く改善するために、フリーランス保護新法を成立させフリーランスを保護しようとしているのです。

フリーランスの急速な増加

内閣官房が2020年に実施した調査によると、フリーランスとして働く人は国内に約462万人いるとされています。副業で働く人も含まれていますが、新しい働き方としてフリーランスを選択する人が年々増えている状況です。

このようにフリーランスとして働く人が増えている状況を踏まえると、上記のようなトラブルは今後も増えていくと考えられます。むしろ、フリーランスの絶対数が増えることによってトラブルの数も加速度的に増えていくでしょう国としてはこのような状況をいち早く食い止めなければならないため、フリーランスを保護するためにフリーランス保護新法が検討されています

フリーランス保護新法とインボイス制度の関係は?


フリーランス保護新法と関係性が深い法律にインボイス制度が挙げられます。意外と認識されていませんがこれらは関連しているものであるため、具体的にどのような観点から関連があるのか解説します。

インボイス制度の開始によるトラブル防止

フリーランス保護新法が導入された一つの要因として、2023年10月に開始されるインボイス制度が考えられます。インボイス制度によって、免税事業者に対する発注額の減額や発注の停止などのトラブルが発生すると考えられるため、そのような事情によりフリーランスへ影響が出ないように考えられているのです。

これらのトラブルについては、現時点でも下請法によって禁止されている部分があります。ただ、フリーランスは保護されない場合も多いため、今回、フリーランス保護新法によって保護されるように考えられている状況です。なお、フリーランス保護新法が施行されるとインボイス制度に関連して以下のような行為が禁止されます

  • 免税事業者に対して消費税相当額を支払わない
  • 課税事業者になった場合でも発注側が一方的に値上げ交渉に応じない
  • 取引の停止などを武器にして課税事業者になることを迫る

下請法が適用されるならば保護される場合はありますが、適用されない場合は不利益を被ってしまいます。そのため、フリーランス保護新法で改めて保護されるようになる見込みです。

価格交渉は可能

フリーランス保護新法では価格交渉自体が禁止されているわけではないため、双方が合意して契約書が作成されれば単価の修正はできます。継続的に仕事を獲得するためには、若干の値引きに応じなければならないこともあるでしょう。クライアントの予算に限界がある場合は、フリーランス側が減額しなければならないケースも考えられます。

繰り返しにはなりますがフリーランス保護新法で禁止されるのはクライアント側がこのような要望を一方的に突きつけることです。また、条件を飲まないならば契約を解除するなどの無理な交渉も認められません。双方が合意した上で単価を修正しなければならないのです。

フリーランスとしては単価を下げたくないものの、仕事を失ってしまうのも避けたいところでしょう。クライアントの一方的な要求は拒否できますが、交渉する姿勢を見せているならば柔軟に対応した方が良いかもしれません。

フリーランス保護新法の導入で、いつから何が変わる?

フリーランス保護新法が施行されることによって「結局、いつから何が変わるのか」と疑問を持つ人は多いでしょう。このような疑問を持つことは不思議ではなく、むしろ当たり前だと考えられます。

というのも、フリーランス保護新法は2022年の秋に国会へ提出されて成立する見込みでしたが、内容が詳細に定まらないことから、2022年12月8日に臨時国会への提出見送りが決定しました。つまり、現時点では政府はどのような法律を考えているのか私たちが知ることはできず、パブリックコメントの結果などだけが把握できる状態なのです。

法律の内容は見直しされ、2023年の通常国会で提出とされています。ただ、通常国会の期間は長く、どのタイミングで提出されるかは不明確であるため、いつから何が変わるのか現時点では判断できません。2023年の通常国会が始まる頃には新しい情報が公開されると考えられるため、その時を待つようにしましょう。

まとめ

2023年に施行される予定のフリーランス保護新法について解説しました。現在中身を検討中の法律であるため、詳細については変化する可能性があります。ただ、フリーランス保護新法が施行されることによって、今まで下請法では保護されなかったフリーランスが保護されるようになるのは間違いないでしょう。

また、フリーランス保護新法が施行される背景には、インボイス制度の導入もあると考えられます。インボイス制度によってクライアント側からの無理な値引き交渉などが生じる可能性があり、それを取り締まるためにフリーランス保護新法が施行されるのです。具体的にどのタイミングから施行されるかまだ分かりませんが、インボイス制度が開始する前に施行されることを期待しましょう。

SHAREこの記事をシェアする

admin