【2021年9月開始】フリーランス向け「労災保険の特別加入制度」とは?

【2021年9月開始】フリーランス向け「労災保険の特別加入制度」とは?

今までフリーランスや個人事業主は、労災保険に加入できませんでした。これはどちらも従業員ではなく事業者ですので、労災保険に加入する要件を満たしていなかったからです。

しかし、フリーランスや個人事業主でも、万が一に備えて労災保険が必要だと言われ続けていました。そのため、現在はフリーランスも労災保険に特別加入できる制度が設けられています。今回は、これがどのような制度であるのかについてご説明します。

フリーランス向け労災保険の特別加入制度とは

フリーランス向け労災保険、と言われてもあまりイメージが湧かない人は多いでしょう。まずは労災保険の概要と、特別加入制度とは何かについてご説明します。

そもそも労災保険とは

最初にそもそも労災保険とはどのようなものであるか、をご説明します。

労災保険は正式名称を「労働者災害補償保険」と呼ぶ、労働者向けの保険制度です。労働者が勤務中のトラブルで怪我や病気になってしまった場合や死亡してしまった場合に、保険給付が行われる仕組みです。国として労働者が働きやすい環境を整えるために設けられた制度、と考えましょう。

国が設けた制度ですので、法律で従業員のいる事業所は加入が義務づけられています。一人でも従業員を雇用していれば労災保険に加入する必要があり、事業者は労災保険料を負担しなければなりません。保険料は事業者が100%負担する仕組みで、他の社会保険のように事業者と労働者が折半する仕組みではありません。

労災保険の対象となるのは、事業者が雇用している従業員全てです。正社員はもちろん、パートやアルバイトなどについても労災保険に加入しなければなりません。パートやアルバイトだからといって、労災保険に加入していなければ法律違反となります。

ここで注意してもらいたいのは、フリーランスは労災保険の対象に含まれていない点です。基本的にフリーランスは事業者との雇用関係にはなく、業務委託や派遣の形で仕事を引き受けているだけです。そのため、事業者は労災保険に加入させる必要はなく、フリーランスは加入できないのです。

契約の都合からフリーランスは労災保険に加入できません。この点は長らく問題視されている、という状況です。

特別加入制度とは

上記でご説明したとおり、フリーランスは事業者であるため労災保険に加入できません。個人事業主の登録をしていなかったとしても、フリーランスとして活動していれば事業者として扱われます。

ただ、先ほども説明したとおり、この状況は問題であると言われています。特に収入面では雇用されている人よりもフリーランスの方が不安定になりやすく、フリーランスの方が雇用保険などで守られるべきだとの意見があるのです。

そのような意見を踏まえて、新しく設けられたのがフリーランス向け労災保険の特別加入制度です。今までフリーランスは労災保険に加入できませんでしたが、条件を満たしている場合に限り、特別に加入できるようになったのです。

具体的にどのようなフリーランスが加入できるのかは、後ほどご説明します。ここではフリーランスも特別加入制度によって、労災保険に加入できるようになった点を理解してください。

特別加入制度の対象となるフリーランス


続いては、具体的に特別加入制度の対象となるフリーランスについてご説明します。特別加入制度については複雑な部分がありますので、その点を踏まえてご説明します。

法改正により対象者が拡大

まず皆さんに理解してもらいたいのは、労災保険の特別加入制度自体は新しく開始された制度ではありません。こちらの制度自体は昔から存在していて、フリーランスのように労災保険に加入できない一部の人が特別加入できるようになっていました。

しかし、以前の特別加入制度は対象となる人に多くの制限がありました。そのため特別加入制度があるものの、利用できないフリーランスが多い状況でした。例えば、フリーランスが多いデザイナーやプログラマーなどは、特別加入の条件を満たしていなかったのです。

それが2021年1月の法改正で、多くの業界や業種のフリーランスが特別加入制度を利用できるようになりました。この法改正でフリーランスの多いデザイン業界やIT業界のフリーランスが対象になったため「フリーランスに対象が広がった」と表現されるのです。

厳密には特別加入制度自体は昔からあり、今回ご説明するフリーランスが対象になっていなかっただけです。法改正により対象者が拡大しましたので、制度の概要としてその点は理解しておきましょう。

2021年4月1日から適用

法改正により、2021年4月1日から労災保険の特別加入制度を利用できる対象にフリーランスが追加されました。具体的には以下の職種が特別加入制度で利用できるようになっています。

  • 柔道整復師
  • 芸能従事者
  • アニメーション制作従事者

厚生労働省令第11号ではやや難しい記載がされていますが、これを皆さんが分かりやすい言葉に置き換えると、これらに該当する職業のフリーランスが特別加入制度を利用できるようになっています。

なお、柔道整復師は資格を持っていることで名乗れる職業です。そのため労災保険に特別加入する段階で資格を持っていなければ、労災保険の特別加入は認められません。

2021年9月1日から適用

関連法律は追加で改正され、2021年9月1日から特別加入制度を利用できるフリーランスが更に追加されました。具体的には以下の職種が特別加入制度で利用できるようになっています。

  • 原動機付自転車又は自転車を使用して行う貨物の運送の事業
  • 情報処理システムの設計等の情報処理に係る作業

前者については、フードデリバリーなどを行うフリーランスが該当します。このようなフリーランスは自転車での移動が多いなど、労災が発生する危険性が常につきまとっていました。そのような状況でありながら、労災保険に加入できなかったのです。

しかし、労災保険への加入の重要性が見直され、今回の改正で加入できるようになっています。もちろんフードデリバリーに限らず、宅配便の配達などをしているフリーランスも該当します。

後者については、エンジニア全般が該当します。具体的に加入対象となるエンジニアの種類については記載されておらず、「IT人材」に該当するフリーランス全般が特別加入制度の対象となるようです。そのためエンジニアとして活躍していれば、基本的に特別加入制度の対象となると考えてよいでしょう。

また、エンジニアだけではなく、Webデザイナーなども「IT人材」として扱われます。実態としてデザイナーはデザイン業界の人材ですが、Webに関わってるという点でIT人材として扱われます。Webサイトをデザインするフリーランスはもちろん、バナーなど各種デザインを作成するフリーランスも含まれます。

ただ、コンサルタントなどIT業界ではなく、違う業界と判断されるようなフリーランスは注意が必要かもしれません。この点は素人には判断できませんので、社労士が実施する相談窓口や労災保険相談窓口などに連絡してみるのがおすすめです。

労災保険の特別加入制度を利用する際の注意点


フリーランス向けの労災保険特別加入制度を利用する際には注意点があります。どのような点に注意するべきか具体的にご説明します。

労災保険料は自己負担

フリーランスが労災保険の特別加入制度を利用する場合、保険料は自分で支払う必要があります。労働者の雇用保険料は事業者が負担しますが、フリーランスの場合はそうではありません。

そのため、労災保険の特別加入制度を利用する場合、保険料を算出して支払う必要があります。「労災保険は無料で加入できる」と考えていると、保険料の支払いに戸惑ってしまうかもしれません。必ず自己負担であることは、注意点として理解しておきましょう。

具体的な保険料は「給付基礎日額」に365を掛けて3/1000した値です。この式で算出された値が年間の社会保険料となります。なお、給付基礎日額は本来直近3ヶ月の収入から算出されますが、フリーランスが特別加入する場合は3,500円から25,000円の間で、自分で選択した金額が適用されます。

例えば、最低の3,500円を選択すると年間保険料は3,831円です。逆に最高の25,000円を選択すると年間保険料は27,375円です。最大でも3万円弱ですので、自分が支払える金額とのバランスを鑑みて給付基礎日額は決定すると良いでしょう。

なお、保険料については変動する可能性があります。現時点ではこのような算出式となっていますが、念のために最新のものがどうなっているのかは確認するようにしてください。

フリーランス個人では加入手続きができない

労災保険の特別加入制度は、自分で加入手続きができるものではありません。厳密には直接加入手続きをするのではなく、自分で加入手続きができる団体に依頼をして手続きをしてもらいます。

一般的に、フリーランスの社会保険は自分で手続きをしなければなりません。年金など様々な手続きを自分で済ませた経験があるでしょう。

しかし、良くも悪くも労災保険の特別加入制度は直接申し込みができません。厚生労働省から認定を受けた「特別加入団体」が、フリーランスの代わりに加入申込書などを所轄の労働基準監督署長に提出します。最終的には労働基準監督署長が都道府県の労働局長に提出します。

特別加入制度の手続きについては、フリーランスが間違えやすい部分です。IT人材に該当するフリーランスの場合は「一般社団法人ITフリーランス支援機構」が特別加入団体に認定されていますので、こちらを経由して手続きするようにしましょう。

加入時に病気などの場合は利用できない可能性がある

特別加入制度を利用する際に、加入者が病気などの場合に加入を断られる可能性があります。事業者に雇用される従業員であれば関係なく加入できますが、フリーランスのように特別加入制度を利用する場合は加入できないことがあるのです。

また、加入前に病気であった場合、仮に加入できても保険料の支払いを受けられない可能性があります。加入前の健康状態が影響していないか調査されますので、調査の結果として支払わない判断が下される可能性はあります。

何かしら心配な病気がある場合は、加入申し込みをする際に相談しておくのが無難です。どのような判断が下されるかはケースバイケースだと思われますので、特別加入団体の窓口などに相談してみるのがおすすめです。

まとめ

フリーランス向けの労災保険の特別加入制度についてご説明しました。労災保険の特別加入制度自体は昔から存在しますが、2021年の法改正によって対象となるフリーランスの幅が広がっています。これによって、IT人材やその他のフリーランスが制度を利用できるようになっています。

特別加入制度を利用すれば労災保険に加入できますが、フリーランスが加入する場合は注意が必要です。例えば労災保険料は自己負担ですし、加入手続きは自分ではできません。事前に認定された特別加入団体を経由する必要があります。

保険料は自己負担ですが、フリーランスが労災保険に加入できるのは大きなメリットです。必要に応じて労災保険に加入して、万が一に備えるようにしましょう。

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