マイグレーションとは?概要とリプレース、コンバージョンとの違いを解説!
IT業界で耳にする機会の多いキーワードとして「マイグレーション」が挙げられます。エンジニアとして働いているならば、プロジェクトに関わったこともあるでしょう。非常に馴染みの深いキーワードだといっても過言ではありません。
ただ、具体的な意味合いが理解できてるでしょうか。また、リプレイスやコンバージョンとの違いも理解できているでしょうか。今回は、エンジニアとして知っておきたいマイグレーションについて解説します。
システムのマイグレーションとは
最初に、IT業界におけるマイグレーションとは、どのような意味合いであるのか理解を深めましょう。
マイグレーションの概要
マイグレーション(Migration)とは、移住や移転などを意味する英単語です。IT的な意味を含んだ単語ではありませんが、IT業界では既存のシステムやソフトウェア、保存されているデータなどを新しい環境に移すことを意味します。幅広い意味では「移行」と表現されることもある作業です。
なお、マイグレーションの対象は状況により異なります。上記のように、システム全体を指すこともあれば、特定のデータだけを指すこともあるのです。そのため、マイグレーションの対象を示すために「システムマイグレーション」「データマイグレーション」などと表現することもあります。
なお、マイグレーションの前後ではシステムやデータの環境や構成が変化することを理解しておきましょう。例えば、オンプレミスのサーバーからクラウドのサーバーへとマイグレーションすることが考えられます。また、クラウドからクラウドへとプラットフォームを変更することも有り得ます。「マイグレーション」は何かしらを移行する作業であり、その詳細は状況に応じて大きく異なるのです。
マイグレーションの種類
上記で解説したとおり、マイグレーションにはいくつかの種類があります。具体的に、どのような種類があるのか挙げると以下のとおりです。
データベースマイグレーション
データベースマイグレーションは、組織が使用するデータベースシステムの変更やアップグレードの際に実施されるマイグレーションです。例えば、組織内で従来のリレーショナルデータベースからNoSQLデータベースへと移行するなどの作業が該当します。
このような作業の場合、データの形式や構造を変更する必要が生じるでしょう。この過程で、データの整合性や品質を保持しつつ、移行をスムーズに実施しなければなりません。そのため、データに注目した専門的なツールやサービスを使用してマイグレーションが実施されます。
アプリケーションマイグレーション
アプリケーションマイグレーションは、ソフトウェアの実行環境が変わる際に必要なマイグレーションです。例えば、WindowsからLinuxへの移行や、デスクトップアプリケーションからWebベースのアプリケーションへの変更などが該当します。
このマイグレーションでは、アプリケーションのアーキテクチャの再設計や、新しい環境での動作確認などが必要とされます。また移行の際にあたっては、既存の機能やユーザーインターフェースを維持しつつ、新しい環境での最適化や機能拡張なども意識しなければなりません。
サーバーマイグレーション
サーバーマイグレーションは、物理的なサーバーや仮想サーバーのデータやアプリケーションを、別のサーバー環境へ移行する作業です。この背景には、サーバーのハードウェアのアップグレード、オペレーティングシステムの変更、データセンターのロケーションの変更などがあるでしょう。
サーバーマイグレーションにあたっては、移行元と移行先の環境で互換性があるかどうかなどの確認が重要です。また、システムのダウンタイムが発生する場合は、これを最小限に抑えるための取り組みが求められます。他にも、データやアプリケーションの完全な移行が重要となるなど、負荷の大きくなりやすいマイグレーションです。
ビジネスプロセスマイグレーション
ビジネスプロセスマイグレーションは、企業のビジネスプロセスや業務フローが変更される際に、システムやデータの移行をすることです。例えば、企業の組織変更やビジネスモデルの変革、新しい技術の導入などによって、マイグレーションが必要とされます。
このような大きな変化が生じる際は、既存のシステムやデータを新しいビジネスプロセスに合わせて移行することも検討しなければなりません。今までと同じでは、ビジネスプロセスなどを変化させる意味が薄れてしまうのです。そのため、業務の中断を避けつつ、新しいプロセスに合わせた最適なシステムやデータ構造を構築するためにマイグレーションが求められます。
マイグレーションとリプレースやコンバージョンの違い
マイグレーションと似た概念のキーワードに、リプレースやコンバージョンが挙げられます。明確な違いがあるため、使い分けできるように正確な知識を持ちましょう。
リプレースとの違い
リプレースは、古いシステムや構成しているコンポーネントなどを、新しいものに置き換える作業です。基本的に、リプレースといえば全てを置き換えることを指します。作業の都合から、段階的に置き換えていくことはありますが、一部分だけで完了することはありません。
リプレースが完了した後、古いものは使われなくなり新しいものだけを利用するようになります。例えば、古いバージョンのソフトウェアを新しいバージョンにリプレースすると、古いバージョンは利用されなくなるのです。
つまり、マイグレーションは「移行」に着眼しているのに対し、リプレースは「置き換え」に着眼しているといえます。対象となっているものが、プロセスであるのかアクションであるのかという違いがあるのです。
コンバージョンとの違い
コンバージョンは、データやファイルの形式を別の形式へと変換するものを指します。例えば、WordファイルをPDFに変換したり、CSVファイルをXMLファイルに変換するなどです。
一般的にコンバージョンの目的は、データの互換性を持たせたり、特定のソフトウェアやシステムで利用したりするためです。コンピューターは様々なデータを扱うため、そのままでは利用できないことが多々あります。そのため、コンバージョンの考え方が必要となるのです。
つまり、マイグレーションは「構成やプラットフォームの変更」に着手するのに対して、コンバージョンは「データ形式やファイル形式の変更」に着手しています。コンバージョンの方が、非常に狭い範囲を扱うため、この違いは重要なポイントです。
マイグレーションの基本的な流れ
マイグレーションは、対象とするものによって、進め方に若干の違いがあります。ただ、基本的な流れは固定されているため、それについて解説します。
マイグレーションの計画
これからマイグレーションを進めるために、計画を立てなければなりません。適切に計画を立てることが、マイグレーションプロジェクトを成功させるための鍵を握ります。例えば、以下の事項を検討しておきましょう。
- 目的:どのような理由からマイグレーションが必要となるのか明確にする(例:コスト削減・パフォーマンスの向上)
- 範囲:移行するデータやアプリケーションの範囲を決定する
- リソース:マイグレーションに必要なリソースの内容と確保の可否を評価する
- リスク:システムの停止による業務影響など大小リスクを認識する
- タイムライン:マイグレーションのスタートからエンドまでを正確に見積もる
これらは一例であり、計画段階で可能な限り細かい内容を決定しておくことが重要です。大雑把であればあるほど、プロジェクトがスタートしてから問題になりかねません。
準備
実際にマイグレーションをスタートする前に、事前準備が必要です。準備が不足していると、何かしらの問題が生じた時に、対応が遅れてしまうかもしれません。
例えば、マイグレーションが失敗する場合に備えて、全体のバックアップが必要です。何かしらの問題が発生した場合は、バックアップを使用して元の状態に戻せます。
また、マイグレーションを効率よく進めるためには、ツールを活用することが一般的です。そのため、どのようなツールが適しているか、事前に評価したり選定したりすることが求められます。例えば、データベースを移行するためにデータベース移行ツールを評価しておくなどです。
マイグレーションの手順評価
事前準備が完了すれば、部分的なマイグレーションによって、手順などを評価していきます。どんなに準備していても、思うようにマイグレーションを進められないことは多々あるのです。そのため、いきなりマイグレーションを実施するのではなく、想定していたとおりに動作してくれるかの確認が求められます。
例えば、システム全体を別の環境への移行する場合、新しい環境で同じパフォーマンスを発揮できるか評価することが必要です。もし、明らかな性能の低下が確認されるならば、全体をマイグレーションする前に原因を特定しなければなりません。マイグレーションのタイミングを見直すことも考えられます。
また、マイグレーションで課題になりやすいことがデータ移行です。大量のデータを移行する場合、想定していた時間内に終わらないことが考えられます。そのため、事前に少ないデータで移行の手順を再現し、時間内に終わらせることができるか評価するのです。
マイグレーションの実施
手順の評価が完了し、問題なくマイグレーションできると判断されたならば、実施へと進みます。テスト環境ではなく、本番環境を利用して、システムや保存されているデータを移行しなければなりません。失敗すると、利用者へ影響が出てしまうため、非常に重要な作業です。
基本的には、事前に評価しておいた手順に沿って、マイグレーションを進めていきます。新しいプラットフォームにシステムを展開したり、動作に必要なデータを移行したりしなければなりません。
また、単純にデータを移行するだけではなく、システムの設定変更が必要になるかもしれません。例えば、サーバーの名称が変更になったり、APIエンドポイントの内容が改定されたりすることが考えられます。
マイグレーション後のテスト
基本的には、手順に沿ってマイグレーションすれば、適切にシステムやデータが移行されているはずです。ただ、本当にマイグレーションが成功しているかどうかは、確認しなければ判断できません。そのため、マイグレーションの結果を確認できるテストを実施します。
例えば、移行されたデータの整合性を評価するテストが考えられます。マイグレーションの前後で同じデータが保存されていれば、問題なく対応できていると判断できるでしょう。また、実際に動かしてみて、以前と同じように処理できるかどうかを確認します。
マイグレーションではリスクの認識が重要
上記で解説したとおり、マイグレーションの手順を正確に実施できれば、作業の過程で失敗する可能性は下がると考えられます。ただ、マイグレーションにはリスクが付きまとうため、その点は必ず認識しなければなりません。
例えば、計画の段階で作業量を正確に見積もれていないと、後続の作業が頓挫する可能性があります。リソース不足に陥ったりコストが枯渇したりするのです。よくあるリスクとして認識しておいたほうが良いでしょう。
また、関係者にマイグレーションの目的や意図が周知されておらず、自分勝手な行動を引き起こしてしまう可能性があります。一般的に、マイグレーションのプロジェクトでは多くの人が関わるため、小さなミスでも大きなトラブルになりかねません。関係者の認識を統一し、確実にマネジメントしなければ、常に大きなリスクを抱えてしまいます。
まとめ
エンジニアならば理解しておきたい、マイグレーションについて解説しました。システムやデータを新しい環境へと移動させることで、日本語では移行作業と呼ばれるものに分類されます。
目的や対象は様々であり、コスト削減や新バージョンへの対応などが挙げられます。作業内容や進め方に若干の違いがあるため、目的を明確にしてから着手することが大切です。